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夢小説 山小屋 [夢小説]



あるところに、主に中級以上の登山者に知られる山脈と、その麓の村があった。

その山脈の眺望は、登ったものにしか分からぬ迫力の絶景、と讃えられ、

昨今の登山ブームも手伝って、最近急に登山者が増えた。

その一方、危険な地形はさほど多くないにもかかわらず、

粘り強い捜索でも遺体一つ発見できぬ、謎の遭難も続出した。

それでも、この山の魅力に惹かれ登山に訪れるものは、後を絶たないのだった。



この山が観光地として開発されようとした時、麓の村から大きな反対が起きた。

しかし過疎化が進み、登山客から得られる収入無しには、

村は立ち行かなくなっていた。反対の声はすぐにかき消された。



今日も麓の村に、ある若者の登山グループが訪れた。

村にはみやげ物や物資の商店、小さな宿や休憩所があり、

若者達は一休みを兼ねて準備しようと、休憩所の座敷に並んで腰掛けた。



すると背が高くて痩せた、シワやシミの深い老人が現れ、向かいに腰掛け、

「俺はこの村のものだが、」と意外にもハリのある太い声で若者に話しかけた。

「いいか、君達、この山にはくれぐれも注意しなきゃならん。」

若者達は老人の唐突の切り出しに、いささかあっけにとられたが、

「爺さんの説教か」と1人が合いの手を入れ、小さな嘲笑が起きた。

「昔から、この山は魔の山と言われてきた、

 この村にはこの山と付き合ってきた長い歴史があるのだ。」



そう聞いて若者達はいささか関心を向けたように見えた。

時間には余裕があるし、本場の爺さんの話を聞いてみるのも悪くない。

「ここで謎の遭難が多いのは君達も知っているだろう。

 この村の者は、昔から常に「山神の神隠し」と恐れてきた、
 
 神隠しが通った、大きな雪の跡を見たと言うものも居たが、

 実際にそのものを見たものは居なかった。

 このままでは、登山客の遭難は増えるばかりだろう、
 
 俺は3年ほど前から、山の謎を、遭難の謎を調べるために山に入ることにした。
 
 

 長老に伝えると、村に古くから伝わるお守りを持たせてくれた。
 
 それは小さな麻袋に猛毒のトリカブトを入れたもので、
 
 どんな時も肌身離さず持っておくように言われたのだ。
 
 俺はそれを首から提げて、何度も山へ行き、あらゆる場所を調べていった。
 
 

 そしてある冬の日のことだった、山に入ってしばらくすると天気が変わり、
 
 吹雪になった。
 
 難しい山じゃないが、下山にてこずるだろうと思った。
 
 
 そんな時、雪間にかすかに見えるものがあった。小さな山小屋だ。
 
 こんな場所に山小屋があるとは知らなかった。用心して中を覗いてみた。
 
 中は無人で粗末な造り、小さな暖炉とムシロの掛かった寝床があるだけだ。
 
 だが日暮れまでに帰れる自信は無かったし、ありがたかった。
 
 中に入り薪をくべると、暖かくなり、すぐに強い眠気に襲われた。
 
 俺は寝床でムシロをかぶり眠りについた。
 
 もちろん長老の言いつけを守り、眠る時もお守りは手放さなかった。
 
 
 ところが、俺は感じたことの無い激しい倦怠感と、
 
 ムシロの異常な重みを感じて目を覚ました。
 
 寝床から起き上がるどころか、這い出ることすら出来なかった。
 
 力が抜け、血が抜かれていくようだった。
 
 俺はこれがどういうことか分かった。
 
 俺はこの小屋のムシロで消化されつつあるのだ!
 
 俺はこのまま死ぬのだろうと絶望的な気持ちになった。
 
 
 その時、ゴゴッという唸りのような音と共に俺はムシロから放り出された。
 
 全身に力が入らず、這うのがやっとだったが、俺は何とか生きていた。
 
 首の麻袋を見ると、袋が破れてトリカブトがあらわになっていた。
 
 ムシロが俺と一緒にトリカブトも消化しかけて、毒に触れ、
 
 慌てて俺ごと吐き出したわけだ。
 
 
 俺の手は老人のようにしわくちゃだった。
 
 トリカブトのおかげで助かったが、体は半分消化され、俺は爺になってしまった。
 
 そう、信じられないかもしれないが、俺はお前らと同じくらいの歳なのだ。
 
 
 そんな中、俺はゆさゆさという揺れを感じた。
 
 地震か? いや、窓の景色が変わっていく。
 
 この小屋が動いているのだ!
 
 この小屋は、化け物だ!
 
 しばらくして小屋が動きを止めたので、俺は命からがら這い出した。
 

        
 

 それからは良く覚えていない。
 
 俺は入った側と反対側の原野に倒れているところを救助された。
 
 
 俺はこの山の秘密を、若さと引き換えに知ったのだ。
 
 あの山小屋は、普段は洞窟か森に隠れていて、

 天候が悪くなると都合のいい場所に移動して、登山客を待ち伏せる。
 
 そして、ムシロに寝た客をことごとく消化してしまうのだ。
 
 そうして、あの山小屋は大昔から生きてきたのだろう。

 
 俺の言いたいことはわかるな。
 
 いいか、もしこの山で山小屋を見つけても絶対近寄るな、
 
 それ以外でも怪しいものを見かけたら注意しろ。」
 
 
 
「恐ろしい話だな…」若者の1人が呟く。
 
「爺さん、レスキューとか、マスコミとかにその話しないのか?」
 
「したとも。だが彼らは信じない。 無理も無いがな、突飛過ぎる。」
 
「ああ…、俺知ってる。
 
 登山客見つけてはデタラメ話吹いてまわってる、おかしな爺さんが居るって噂。
 
 この爺さんのことだ。こうやって登山客をビビらせて楽しんでるのさ。
 
 山小屋が人を食う??

 この爺さんが俺らと同じくらいの歳だって?? ありえないでしょ。」
  
「何だー、真面目に聞いて損した。」
 
「あれは山小屋ではない。とにかく注意しろよ。近寄らなければいいんだ。」

老人はそんな反応にはとっくに慣れた様子で言った。 

「はいはい、わーったわーった。」

誰かが言い残し、若者達は出発していった。



そんな調子で老人は何組ものグループに話しかけ、送り出し、

日が暮れると家に帰る。
  
そして、出迎えた中年女性に言った。

「母さん、今日も疲れたよ。」










ハミダシ

母さん、僕も疲れたよ。 今日は雨が酷くならないようなので、ホームセンター行かなきゃ。




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コメント 16

てつろう

怖い話ですね
山小屋なら見つからないのでありそうな話です
最後の落ちもGOOD!
でも ハミダシはないほうがいいかも?

自分が良くわからないだけなのかな....
by てつろう (2006-07-06 12:08) 

jewel

うわうわ~~一気に読んじゃいました。
今回の話は一番好きかも^^。
小屋の絵もシュールですっごく上手で
圧倒されました。 オチも良かった。
by jewel (2006-07-06 12:57) 

じゅん

てつろうさん>
ありがとうございます!
とんでもない山小屋なのでリアルにするのが難しかったです。
「ハミダシ」は僕の本日の一行日記、雑記なのです。
本文とは関係ありませんよ。今日は日曜大工の品を買いに行きました。

jewel さん>
ありがとうございます!
jewel さん、妖怪がお好きなんですよね、
だから気に入っていただけたのでしょうか?
これも「妖怪山小屋」と言ったところでしょうか。
by じゅん (2006-07-06 16:43) 

TOMO

うわ~、なんだか怖いですね。
色々な地域には様々な「言い伝え」が
ありますが、強ちウソではないのも
多いような気がします。
by TOMO (2006-07-07 17:43) 

ミズリン

恐怖感と言うほど強いものではないのですが、
ぞっとしますね。
しかし、その情景が頭の中にちゃんと広がるのが
じゅんさんの文章の素晴らしいところですね。
by ミズリン (2006-07-08 08:48) 

じゅん

TOMOさん>
まだまだ人間、知っているようで知らないことが沢山ありますからね。
実際に不可思議なことを体験しても、言い伝えとしてしか残しようが無い、
この老人のように話して回るしかないですよね。

ミズリンさん>
ありがとうございます!
なるほど、この妖怪は、襲い掛かったりしないですが、
何とも不気味な感じでしょうか。
by じゅん (2006-07-08 17:34) 

ぐーっと引き込まれるようなストーリーでしたね。
僕だったら、どうするかな?
爺さんの話は信じるかも。
by (2006-07-09 18:35) 

じゅん

誠大さん>
ありがとうございます!
素直な誠大さんなら、信じてくれそうです。
村の言い伝えを話す老人というのは、貴重な存在ですね。
by じゅん (2006-07-09 22:18) 

albireo

この山小屋妖怪、本当にいそうですね~
話も勿論ですが、絵も素晴らしい!!
by albireo (2006-07-09 22:53) 

じゅん

albireo さん>
そういって頂き、嬉しいです!
実は遭難の何%かは妖怪のせいだったりして…。
神秘の漂う雰囲気も山の魅力なんでしょうね。
by じゅん (2006-07-10 17:55) 

みかまん

挿絵がピッタリとはまって、このお話に効果を与えてるね。
じゅんくん、どんどん上手くなるね~~^^
妖怪話としても怖いけど、そうやって人の注意に耳を傾けないって言う実際もあるから、その怖さもありました。
by みかまん (2006-07-12 00:24) 

じゅん

みかまんさん>
ありがとうございます~!
僕の自己満足、読んでいただき感謝です!
あまりに突飛過ぎて信じられない、そんな皮肉が終わらないから、
言い伝えや伝説の類は消えないんでしょうね。
by じゅん (2006-07-12 18:52) 

むが

なんか絵のイメージが妖怪ですね。
私的には、スターウォーズのエピソード4の
隠れ家だと思って宇宙船で突っ込んだ穴が怪獣の胃袋だった
という話を想像しながら読んでました。
なので絵のイメージとのギャップに一人ウケてしまいました。
もうしわけない(・∀・;)ゞ
by むが (2006-07-15 22:41) 

じゅん

むがさん>
スターウォーズの怪獣は良く覚えていますが、
話のイメージにあまり一致しませんね。
むがさんのイメージは山小屋に、
大蛇のようなあの怪獣が潜んでいるイメージだったんでしょうか?
by じゅん (2006-07-16 19:02) 

君の心臓を食べたい

ふと思ったのは、長老は山小屋のこと知ってたんじゃないか?どうして止めなかったのかな?ってことです。
by 君の心臓を食べたい (2018-01-26 12:38) 

じゅん

君の心臓を食べたいさん>
長老は先祖からの言い伝えを耳にしていただけだと思います。
具体的な内容が知られることがなかったのは、たまたま助かった生存者の話を誰も信じなかったからだと思います。

by じゅん (2018-01-31 00:30) 

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