夢小説 ハムには緑のアスパラガスを [夢小説]
とある国で、今日も大統領の演説が行われた。
「諸君は、隣国との戦争に勝利しなければならない、
何故なら隣国は常にわが国の安全を脅かし、
利益を脅かし、わが国の領土を狙っている。
諸君は、いかなる時も勤勉に労働しなければならない、
何故なら日々の競争と進歩こそが発展への唯一の道であり、
発展は常に我々に豊かな生活をもたらすからだ。
停滞や後退は許されない。」
国民は毎日、隣国との戦争に明け暮れ、
隣人より少しでも豊かになろうと、奴隷のように働いていた。
その意味は大統領と国が与えてくれた。
その意味を疑う者は無かった。
この国にある小学生が居た。
僕は毎日のように先生に怒られ、親は校長室に何度も呼ばれた。
別に悪いことをしているつもりは無いんだよ、
あれこれ言われて、どうしてこの意味が分からないんだとか、
何度言わせれば覚えるんだとか、うるさく言われる。
お前は馬鹿だって、親も言うんだ。
ある日、図工の時間、
皆でクラスの男の子をモデルに絵を描くことになったんだ。
「同胞を描くことで、国民の友情と団結を深める意味がある」
とか先生が言ってたな。
いつもそんな感じ。
僕が絵を描くと、先生が取り上げて、すごく怖い顔をしたんだ。
「どうしてこんな絵を描いたの！？どんな意味…？
大変だわ、委員会に報告しなきゃ！」って。
それで僕はテレビに出ることになった。
「教育テレビ」で毎日放送される、国民が全員見る番組さ。
今月は、「国民教育強化月間」だとかで特別なんだって。
司会者が言う。
「今日はこの小学生を紹介しなければなりません、
残念ながら英雄としてではありません。
この小学生は以前から問題行動がありましたが、
図工の時間に、同級生を描くべきところで、全く違う悪しきものを描き、
ついに隠し持っていたその恐るべき意味の思想を、
露呈したのであります。
この小学生が絵に表現した意味について、
各解説委員に説明していただこうと思います。」
まず軍事担当の委員が説明した、
「この上に描かれている飛行機に注目してください、
形状からして間違いなく隣国の主力戦闘機です。
主翼と尾翼を見てください、隣国の国旗まで描いてあります。
敵軍に対する賛美の意味でしょう、極めて危険です。」
次に国民労働省の委員の説明。
「紙の右下の四角い枠を見てください。
赤丸の横にグリーンの縦のラインが２本
わが国の旧体制の国旗に酷似しています。
この忌むべき体制下では間違った思想が蔓延し、
自由だとか環境保護だとか、聞こえのいい言葉ばかりがもてはやされ、
国民は怠け、経済が停滞し、国力は貧弱でした。
この体制の復活への願望の意味が見て取れます。
この国の未来を支える学生が、
誤った過去…こんなものを… 描いてはいけない。」
追い討ちをかけるように、心理学者の委員が説明した。
「紙の左側に描かれた、褐色の棒状の異様な形に、
この小学生の心の闇が現れています。
自己に対する激しい劣等感、卑屈な感情、それに相反するような、
外に向かう凶暴な攻撃性などの意味が読み取れる。
卑屈な感情は、自国民族を愛せない気持ち、すなわち反逆心につながり、
攻撃性は、それを実行に移すエネルギーを与えるのです。」
そして最後に僕は、用意された原稿を読まされた。
「僕は誤った思想を抱きました、反省し、国民の皆さんに深く謝罪します。
僕は思想矯正院に行き、先生方の指導を真摯に受け止め、
思想と行動を改めます。
そして国を支え導く、立派な大人になりたいと思います。」
委員達は顔を見合わせ、肯きながら拍手した。
放送は国民の間で大反響を呼んだ。
大統領も演説で大きく取り上げ、
その内容に国民の誰もが賛同した。
少年は思想矯正院に、正しい思想を叩き込まれるべく送られた。
矯正院の思想指導員は古今東西の思想に精通したエリートで構成されていた。
少年と思想指導員は監獄同然の場所に隔離され、外からの情報は一切与えられず、
密室では毎日、指導が行われた。
少年は小学校に居る頃と大して変わらなかった。
暫く日々が経過しても同じ様子だった。
指導員の一人が言う。
「こんな頑固な子供は初めてだ、いや、大人の思想犯だってこれほどは持たない」
そのうち、指導員らは焦り、冷静さを欠いてきた。
「お前は、何て馬鹿なんだ！」などと、感情をあらわに少年に怒るものが居たり、
自分を責めたり、自信を失うなど、総じて精神状態が不安定になりはじめた。
少年の矯正どころではなく、内に篭って悩むものも現れた。
「我々の思想の意味とは何だろうか？」
「そもそも我々の生まれた意味とは何だろうか？」
それは指導員全員を巻き込んでの議論になった。
「我々は最高の教育を受けてきた。我々は選ばれた。」
「我々がこのような役割を与えられた意味は何だろうか？」
「そして、この少年」
「こんな少年は見たことが無い、
こんな少年があらわれた意味は何だろうか？」
指導員らは全ての事象に絶対的な意味を与えられてきたはずだったが、
今は全てあやふやに見失っていた。
「そもそもあの不可解な絵、もしかしたら違う意味があるんじゃないだろうか？」
指導員は少年に話しかけた。
「君、今まで散々意見を押し付けるばかりで悪かった…。
こんどは僕らが聞く番だ。
あの絵の、本当の意味を教えてくれないか？」
答えを聞いた指導員らは、驚き、行動を起こした。
部下を従え、
思想の宣伝用に用意されていた、テレビ放送機器を積んだバンに少年と乗り込み、
テレビ塔に向かった。
指導員らは上層部の信頼も厚く、絶対的な権限を握っていたので、
障害は無に等しかった。
そして、「教育テレビ」でいつもの国民放送が始まる時間、
各家庭のテレビでも、
街頭の巨大スクリーンでも、いつものように大勢の群集が注視していた。
だが観衆は、いつもとは違う画面を目にした。
あの危険思想で有名な小学生が、自分で描いた例の絵を手に映ったのだ。
「えーと、この前の絵の説明は、全然違うんだよ。
僕が自分で説明するよ。それが、当たり前だろ？
図工で僕はあの男の子にいじめられていたし、男の子は描きたくなかった。
上に描いた飛行機は確かに隣の国のだけど、
カッコいいから描いただけだよ、隣の国を応援してるわけじゃないよ。
国旗だって言ってた、赤い丸は、先生のお尻さ。
先生は赤いスカートを履いてたんだ。あんまり立派なので描いた。
となりの緑はアスパラガスなんだ。
よく立派なハムにはアスパラガスが添えてあるだろ？
だから何となく描いたほうがいい気がしたのさ。
左の茶色の棒はヤキトリ女っていうんだよ。夢で見たんだ。
でも何だかウンコみたいになっちゃったね。
それがいい人は、そう思ってくれて構わないよ。
だから、この絵で言いたいことは特にないんだ。意味は無い。
意味なんて無いんだよ。」
スクリーンの前の群集はあっけにとられ、恐ろしいほど静まり返った。
誰もがスクリーンを見つめ、言葉を失っていた。
その時、誰かが静寂を破り叫んだ。
「隣国に爆弾を落とす意味も無い！」
声は別の場所からも上がった。
「奴隷のように働く意味も無い！」
「その意味を知る意味も無い！あれ？これ、どういう意味だ？」
「意味は無い！」 「意味は無い！」 「意味は無い！」……
街中で歓声が起こり、国中で人々がその言葉を連呼した。
従って今までの何もかもに意味が無くなった。
すぐに軍事クーデターが起こり、政権は転覆。
大統領は突然、囚人の身分になった。
少年の側に将軍が駆けつけ、こう言った。
「閣下、本日から、閣下が大統領です。」
「僕が大統領かぁ。」
「左様です。」
「で、どうして？」
「特に、意味はありません。」
その晩、街では群集が意味も無く叫び、踊り狂ったのだという。
だが、翌朝に人々が目を覚ますと、この国は真っ白だった。
それぞれが、自分で意味を探さなくてはならなくなった。
茫然自失の思想指導員が、呟いた。
「人は意味を探し続けることに、その意味があるのかもしれない…。」
ハミダシ
もしも最後まで読んでくださった方が居られましたら、ありがとうございます、
お疲れ様です。
長いばかりで特に意味はありません、悪しからず・・・
2006-06-28 11:10
nice!(11)
コメント(18)
トラックバック(0)
また上手なオチですね～。
絵も、少年の気持ちで
描かれたのでしょうか？
じゅんさんらしい、じゅんさんにしか
表現できない世界です＾＾。
by jewel (2006-06-28 13:12)
jewel さん＞
ありがとうございます！
僕らしいということは一番大事に思っているので嬉しいです。
クレヨン、久々に描いて楽しかったです（笑）
by じゅん (2006-06-28 18:03)
馴染みがないのかな？こんないいバイトなのに。
http://doutei-g.net/
by あきら (2006-06-28 18:13)
nice！nice！nice！nice！nice！nice！nice！nice！nice！nice！
とても、面白かったです！
意味の意味・・・とても深いテーマが潜んでいるようです。
小学生というより、幼稚園児のような絵も、素晴らしい！
本当の幼児で無い限り、普通こうは描けないと思います(^^)v
by albireo (2006-06-28 18:47)
クレヨン、私はもうどれくらい使っていないだろう・・・
ごめんな～へんなコメント～
by nyan (2006-06-28 19:32)
自分も意味もなく働いています
なぜ働くのか？と考えるための教材を勉強中なので
とても参考になりました。
金持ち父さんのFinanncial Intelligennce
知ってますか？
by てつろう (2006-06-29 06:58)
albireo さん＞
沢山のnice ! ありがとうございます！（笑）
そもそも夢という意味の無いものを題材にしている僕のブログは、
意味が無いのかもしれません。
僕の中にはきっと幼児が住んでいるんですなぁ（笑）
師匠＞
何ともコメントしづらい内容だよね、いいのいいの意味は無いから（笑）
僕もクレヨンでしばらく描いてないな、これはツールだからね。
てつろうさん＞
金持ち父さん…広告で見ましたが、
誰もが抱える身近なテーマ、働き方やお金について、
ヒントを与えてくれそうな本ですね。
きっとてつろうさんは働く意味について色々考え、勉強している時点で、
意味もなく働く、ということから脱していると思いますよ。
by じゅん (2006-06-29 09:08)
今回は挿絵じゃない、絵が主役の小説でしたね。
ヤキトリ女かぁ～笑わせていただいましたｗ
でも見たまんま、アスパラガスだよねぇ。
あの赤い桃はスカートでしたか。
なんか、心理学的な絵ですな（・∀・ｗ）ゞ
by むが (2006-06-29 21:54)
面白く読ませてもらいましたよ。
最初タイトルを見たとき「？」と思ったのですが、
よんで納得。
深い何かが寝ころんでいるなと言う話でしたね。
うまく説明できませんが。
絵が何とも言えないですね。
こういう絵って、書けそうで書けないんですよ。
by ミズリン (2006-06-30 09:50)
おもしろかったです。
世間の常識が個に対してどれほどの影響を与えているか。
悪が善とされ、その逆も然り。
この子が指導者となった後どうなったのかなぁ？
ｅｎｄｌｅｓｓ？
ちょこっと「火の鳥」を思い出しました。
by be-happyyy (2006-06-30 14:51)
凄い数のナイスを押したいです！！
「ほとんどのことに意味なんてない」
このことに気が付くまで人間は
バカな戦争を続けるだろうし、
気が付いた時にはなにも残らないのでしょう。
by TOMO (2006-06-30 17:11)
皆様＞
夢小説は、その性質上、更新はゆっくりですが長めになると思います。
今回皆様には、思いがけず長い文を読んでいただき嬉しいです。感謝！
むがさん＞
ありがとうございます！
どうも僕は夢も含め、幼児の部分があるようで（笑）
むがさんには赤い桃に見えましたか、人によって見えるものが違う、
確かに心理学的ですね。
ミズリンさん＞
長い文、読んでいただき嬉しいです。
「説明できない何か」を感じてもらうこと、僕にとってはとても大事です。
この絵は、僕の中に住む幼児が描かせたんだと思います（笑）
BE-HAPPYさん＞
この子にはもちろん、この国の常識を論破する力はありません、
ただ、その無垢さで、一度全てをリセットしました。
と説明するまでも無い無意味さがこの子の「才能」なのかな。
「火の鳥」強い骨のある、考えさせられるアニメですね。
ＴＯＭＯさん＞
ありがとうございます！
あらゆることに「何のため」と意味づけして、人類はどこに向かうのでしょう。
我々が自分の家族や隣人を愛すのに意味は必要ないのかもしれません。
それはただ「そこにあるもの」かもしれません。
by じゅん (2006-06-30 19:44)
昔の私みたい。この少年。
それから、今までやってたことが、普通にやってたことが
振り返ってみると意味がないっていうのもわかるな。
まじめに今、いろいろ考えさせられましたよ。
by チャーリー (2006-07-01 14:45)
ブースカさん＞
ブースカさん、無垢だったんですね。
今でも、十分無垢だと思いますけど。
意味を探して、見つけては見失って、でもそうやって歩いてきたことが、
何より尊いことだと思います。
by じゅん (2006-07-01 18:06)
むっちゃ意味あるじゃん！！．．と突っ込みたくなったよ。
とても完成度が高いね。面白かったし、怖かったし、意味があった。
by みかまん (2006-07-04 01:22)
みかまんさん＞
ありがとうございます！
つたない文ですが、僕の言いたいことを、
よく読み取っていただけたようで嬉しいです。
by じゅん (2006-07-04 18:20)
急に一人称になったり、三人称になったりするのは良くないと思います。
ストーリーもちょっと強引すぎるような気がします。
by 君の心臓を食べたい (2018-01-26 12:16)
君の心臓を食べたいさん＞
その点は今見返すと、拙かったように思います。
ストーリーは夢で見たコンセプトを伝えたい余りに、まぁリアリティが足りずに見えたのかなと思います。その点は反省点ですね。
by じゅん (2018-01-31 00:21)