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夢小説 あるテレビマンの生涯 [夢小説]

 

幼いころから思っていた。

この不思議な話は、誰も信じてくれないが。


昔から、何か欲しい物の事を考えているときにテレビをつけると、

まさに丁度、その物に関する番組やCMをやっている事が良くあった。

ラーメンが食べたいと思っていてつければ、ラーメン特集が放送されており、

欲しいおもちゃのことを考えていてつければ、そのCMが丁度流れ始める。


初恋の女の子に電話できずにためらっていると、

テレビでは丁度、恋愛ドラマの電話シーンが放送されており、

主人公の台詞を借りて、ぎこちない電話をかけたこともあった。


父が職場の事故で突然亡くなった日の夜、

葬式の客が帰って、手持ち無沙汰になり、

いつも見逃さなかったドラマにチャンネルを合わせると、

ドラマの主人公の父親も亡くなる展開になって、主人公に妙に共感してしまったのだった。

あれは傑作で、忘れられないドラマになったなぁ。


仕事が上手く行かなくて、自分には向いてない、そう思って、とことん落ち込んだ夜。

いつも見ているお笑い番組に、自分に生き写しのような冴えない会社員が出てきて、

コントをしたのだ、私は何故か爆笑してしまったのだった。


今までそれが当たり前だと思っていたけど、テレビに関して偶然が重なりすぎる。

もしかしたら、自分は誰かに監視されてたりして。

そんな風に考えて、恐る恐るテレビをつけると、スパイものの映画が放送されてた。

あの時はさすがに嫌になった。


テレビも無いような山奥の宿に逃げ込んでみたこともあった。

でも、そんな時に限って、テレビに今何が映っているのか気になって落ち着かない。

結局見たくなって、家に帰るとテレビをつける。

大好きな女優が一言、「おかえりなさい。」

これは運命なのだ、と思った。会社をやめた。

自分はテレビの世界で生きるしかないのだ。

 


私には天性の才能があった。テレビの英才教育を受けたようなものだった。

幼いころから、私の意識には常にテレビのことがあった。

私がテレビマンとして働き始めると、関わった番組はどれも高い視聴率をとった。

家庭のテレビには私が期待する画面、つまり私の制作した番組が流れ続けた。

 


そして、私は老年を迎え、ついに放送協会の会長の座に上り詰めた。

テレビ界の頂点である。

そこで私は、長年の夢だったひとつの企画を提案することにした。

テレビ放送の意義を問い直すため、丸一日、一切のテレビ放送をしないのだ。

各界から賛否両論の声が乱れ飛び、委員会は大いに揉めたが、

最終的には画期的で意義深い試みだとして賛同してくれた。

 


そして私はここに居る。

記念すべきこの日、放送局社屋の大型モニターの下に立ち、画面を眺める。

画面に映し出されるのはカラーバーのみ。

昼日中にテレビがこんなに静かだったことがあるだろうか?

いや、私が生まれてから一度も無い。

例えば、いつも共に笑い、泣き、喧嘩してきた家族が、居なくなったら。

その日はかえってその家族のことを深く考えずに居れないだろう。

今日とはそんな日なのだ。

思えば、テレビが私を育て、私もテレビを育てた。

私とテレビはひとつの命のようだ。

 

 

その時、大型モニターの上部で甲高い音がした。

モニターを固定しているボルトが弾け飛んだ音だった。

大きな衝撃音を立ててモニターが傾く。

人々は悲鳴を上げて素早く逃げ出したが、

真下に居る杖をついた老人に、素早く逃げる力は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

老人は大型モニターに押し潰された。

 


放送協会会長の葬儀は盛大に行われ、

テレビでは、追悼企画として、

このテレビマンの栄光の生涯を振り返るドキュメンタリーが放映された。

 


この番組を真摯な顔つきで見ている青年が居た。

 

青年は呟いた。

「やはり俺にはテレビしかない。幼いころから思っていた。

 この不思議な話は誰も信じてくれないが…。」

 

 

 

 

 

ハミダシ

今回の絵、手抜きしたわけじゃありません(笑)

 


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コメント 22

be-happyyy

いやぁ、最初一瞬「現日記」かと…w
僕もよくあるんですよね。
気にしている数字ちょうどで、デジタル時計を見たりとか、
車の距離数メーターを見たりとか、カセットのカウンター見たりとか。
でもこれって誰にでもあるんですよね? どうなんだろ?
そんな僕はA型ですw
by be-happyyy (2006-12-18 10:53) 

jewel

おお~~~ 不思議小説!
短編で惹き込まれて一気にオチへ~
じゅんさんが日ごろ、「ん?」
と感じていることとか、偶然にしては
重なるなあ~と思っていたことが
書かれているのかな、と思いました。
「私には天性の才能があった」等、
自分を客観的に観られる主人公を書かせたら
逸品ですね! 今回はじゅんさんの絵がなくて
淋しい~~(笑)。
by jewel (2006-12-18 13:26) 

じゅんさんの描く世界って、現代人が誰でも共感できる部分が
織り込まれていて興味深いですよね。
絵が手抜きだなんて思いませんよ。
ストーリーと合うことが大事なんですもの☆
by (2006-12-18 20:32) 

じゅん

BE-HAPPYさん>
僕の小説は主観がほとんどなので、間違えられても仕方がないですねw
この主人公ほどピッタリでなくてもありますよねー。
律儀なBE-HAPPYさんらしい経験だと思いますけど
僕も似たようなので、目覚ましを寸前に止めるってよくありますね。
カチッって針の合わさる音で目覚めることもありますけど、
そのわずか手前。何なんでしょう?

jewel さん>
ありがとうございます!
仰るとおりで、僕は何気ない日常で感じること、不思議に思ったこと、
それには夢も含まれるのですが、そこから文を書きます。
だからでしょうか、僕の小説は主人公の視点が多いですね。
これから先も絵は描き続けますよ~^ ^

aika さん>
ありがとうございます!
自分の体験、経験から書くことが多いからでしょうか、
それを共感と言っていただきましたが、それが逆に僕の驚きであり、
興味深いですね。
絵がストーリーに合うと言っていただき嬉しいです^ ^
by じゅん (2006-12-18 21:43) 

yujin

テレビと私... その関係をまた考えて見るようになりますね^ ^
私も tvと一つになっていますw
by yujin (2006-12-19 12:09) 

ミズリン

テレビで食っている我が家にとっては、複雑な話でしたが、最近のテレビのあり方には疑問を感じています。
人をおとしめるやり方の笑いは、子どもには見せるべきではないと思いますし、ワイドショーで事細かに犯罪方法を説明するのも、実は避けるべきでは・・・と思います。
テレビはそろそろ自分たちの影響力の強さを認識しなおして、作る番組に誇りを持つべきです。そう言う番組を作るべきです。
by ミズリン (2006-12-20 16:45) 

じゅん

yujin さん>
僕にとってもテレビは空気のように入り込んで、
一つになっている存在です^ ^

ミズリンさん>
ミズリンさん、そうでしたね。
でも、これはテレビ界を風刺したつもりのものではないので、
娯楽として気楽に楽しんでいただければ、と思います^ ^;

テレビに対するご意見に関してはミズリンさんに大いに賛同しますね。
僕も石原良純 がいつもいじめられるのは疑問です(笑)
それからワイドショーも、模倣犯の問題もそうですが、
あまりに迫真の描写で、見ていて気分が悪くなりますね。
この世の最もむごたらしい部分を集めて放送しているわけですから。
知らなくていいこともあると思います。
by じゅん (2006-12-20 17:16) 

TOMO

一人暮らしの時は
帰ってきたらまずテレビをつける。
見て無くてもつけてる。
朝起きたらつける。
もうBGMみたいなものでしたね。
いまでもテレビは好きですが
昔に比べて見なくなったかも。
たぶん1日見なくても平気です。
by TOMO (2006-12-21 17:03) 

じゅん

TOMO さん>
今の僕はTOMOさんの一人暮らしの頃と同じ感じですね。
僕もそれほどは愛着はないのですが、
一日見られないと言うのは、寂しいです。
その寂しさの感情を何とも説明できません。
by じゅん (2006-12-23 17:05) 

竜胆翡翠

こーばーわー(意味不w
お久しぶりの翡翠ですよwwww
私もなるんですけど………
偶然テレビをつけると考えていたことが出てきたりとか………
押しつぶされて死んだらどうしよう!!
いや、その前にテレビ業界には行かないから大丈夫かwww
でゎでゎ意味不明なレスをしに来た翡翠でしたw(チャンチャンw
by 竜胆翡翠 (2006-12-23 19:39) 

あやこ

思っていることがTVでやっていると おぉー と思ってしまいます。
最近は、なかなかTVをみる時間もなくて・・・
お正月はのんびりTVがみたくなりました^^
by あやこ (2006-12-24 19:40) 

じゅん

竜胆翡翠さん>
こーばーわーw
現れましたな、翡翠さんw
翡翠さんは僕と同じくらい、生まれてからずっとテレビがあった世代だと
推測するのですが。 だとしたらテレビとシンクロすることがあっても、
おかしくないのかもしれませんよ。

あやこさん>
テレビは時代を映す鏡。時代と波長が合った瞬間なのかもしれませんね。
お正月、暖かくして、テレビをぼんやり見たいですね。
僕はコタツでテレビを見たいです。
by じゅん (2006-12-25 17:22) 

nyan

パソコン率が高くなって、テレビ率は減ってしまったのだけれど、それでもやっぱり、私には近くにいる人間みたいな存在かな。家に帰ると、スイッチつけちゃう派だし。あ、でもそれも今はパソコンの日もあるけど。←浮気もんさ

王子、正月に、ビートたけしのお笑いウルトラクイズが復活するよ。
って、そんなこといわれてもね~だね。
by nyan (2006-12-26 15:58) 

じゅん

師匠>
僕はTVつけっぱなしでパソコンやってるよw
で、見てないかと言えば、ちゃんと頭に入ってたりして。
ガヤガヤやってる会議室とか、雑踏の中で妙に集中できちゃうことない?
僕だけかな。
お笑いウルトラクイズ、胡散臭くてB級で ←酷い言い草だ
そんなあなたが嫌いじゃないのよww
by じゅん (2006-12-27 16:38) 

nyan

爆破で、ダミー人形の首が吹っ飛んだら、
「殺すきかーーー」って、ともに叫ぼうね。
by nyan (2006-12-28 19:05) 

じゅん

おうっ!w
さすが師匠、解ってる。 粋だねっw
by じゅん (2006-12-28 22:19) 

あやこ

TVつけてパソコンやっていると、いつの間にかTVだけを観ていることが多いです(^^;
来年もどうぞよろしくお願いいたします^^
よいお年をお迎えください!
by あやこ (2006-12-31 19:42) 

じゅん

あやこさん>
あはは、僕もそれありますw
大事な仕事をしているときはやめたほうがいいのかもしれないねw
来年もどうぞよろしくおねがいします!
あやこさんも、良いお年を!
by じゅん (2006-12-31 21:25) 

albireo

何時もながら、上手いです!お見事です!
ちょこっと、背中がゾクゾクしました。
カラーバーの絵の上で終ったのかとも思いましたが、ラストの落ちもかなりのすぐれものです!
by albireo (2007-01-02 23:40) 

じゅん

albireo さん>
ありがとうございます!
テレビに悪意はないのですが、
ちょっとテレビを恐ろしく感じられたかもしれません。
albireo さんに褒めていただけるように、これからも頑張ります!
by じゅん (2007-01-03 20:01) 

竜胆翡翠

どうしよう……私もそんなこと在るよ……たまにw
はい、変な登場の竜胆翡翠ですww
うーん……テレビかー
私もああいう感じですよ……
っていうか私が受けたことと似たことがうつる?的な感じですけど。
学校で嫌味を言われたらドラマの主人公が嫌味を言われてたりとかw

私もテレビ業界に行くべきなのか……ってか死ぬのはやだなーww
ではでは、突然変なことをいいに来た竜胆翡翠でした
さようなら~~~
by 竜胆翡翠 (2007-01-15 01:41) 

じゅん

竜胆翡翠さん>
大丈夫、我々の世代(歳が近いと勝手に推定w)
テレビに育てられたような物だから、
多かれ少なかれ思い当たるんじゃないかな。
竜胆翡翠さんは特に、
シンクロ率(←年代の探りを入れてみるw)が高いと言うことで。
でも、カラーバーを見かけたら近寄らないように注意してねw
さようなら~~w
by じゅん (2007-01-15 08:02) 

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