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夢小説 埋蔵金 [夢小説]


「これでぇッ、最後にぃッ、なるのかなっ!!」

 

男はとある山村にある横穴で、ツルハシを振り下ろす。

その言葉には二つの意味があった、

一つは黄金の小判の詰まった宝箱を掘り当てること。

もう一つは思い浮かべたくもないこと。

途中までは重機で掘り抜いたが、あとは地道に手作業で掘るしかない。

何と言っても、相手は重厚なる歴史そのもの。傷一つつけるわけにはいかない。


横穴の外では、重機とともに休んでいるトラックの中で、

体格の良いひげ面の男が、いびきをかいて眠っていた。

 


男はもう数十年に渡って、戦国時代の武将が残した埋蔵金を追い求めてきた。

文献や言い伝えなどから、日本各地を転々とし、時には事故で身さえ危険に曝した。

 

--堅実に働いて富を蓄えようともせず、見込みのない幻の宝を追っている。

誰もがそう笑ったが、彼は決して発掘をやめようとしなかった。

 

彼が求める物は黄金だけではなかった、埋蔵金とその周辺にある形のない物、

「歴史」こそ彼が一番求める物だった。


 

彼が追っている埋蔵金は、

ある武将が、敵に攻め込まれ、彼の生涯で一番の危機に瀕した時、

敵の略奪を免れるため、城の財産を持ち出し、

ある山の横穴に埋めたという言い伝えから来ている。

 

その後、武将はすんでの所で敵を撃退し、天下統一を果たしたという。

勝利により埋蔵金は使われることなく、有事の備えとしてそのまま残され、

その後長らく続いた太平の世の中でいつしか忘れ去られたのだ。


 

男が疲労と軽い諦めから、振り下ろすツルハシの力が軽くなってきた頃、

土の感触もまた突然、軽く乾いたものになり、

男が掘ってきた穴と同じくらいの空間が現れた。


 

「埋蔵金かもしれない。」


 

喜び勇んでその空間に入ると、

それは通路のような洞穴で、どこまでも続いていた。

男の興奮は高まるばかり。

きっとこの通路の突き当たりに、埋蔵金が眠っているのだろう。

男は確信した。


 

しかし行けども行けども、通路に突き当たりはなかった。

次第に通路は明るくなり、ヘルメットの照明もいらなくなった。

男は次第に落胆の気分を隠せなくなった。

行く先に青空と緑の高原が見えた。

どこかの洞窟を、山の反対から掘り抜いてしまったのだろう。

 

 

だが高原に足を踏み出してみて仰天した。

累々と横たわる、鎧甲冑の武士の死体、

数人の武士達が辺りをうろついている。

 

 

 

こんな場所で時代劇の撮影だろうか?

そして弓を男に向けている武士もいる。

 

 武士は男に言った。

「怪しい奴、何者じゃ?」

「えー、何かの撮影でしょうか?お邪魔して申し訳ありません。」

「さつえい?よく分からぬ言葉を使って逃れようとしても無駄じゃ!」


 

もしかしたら。


 

男は思った、自分は過去に、武士の生きる世界に、

タイムスリップしてしまったのだろうか?

それとも夢でも見ているのだろうか?

ともかく逆らわない方が良さそうだ、それだけは確かだった。

 

 

男はしょっ引かれて城下へ。

男は知識を総動員して辺りを観察した。

おそらく戦国の世、天下統一前、後にその天下を統一した、ある武将の城だろう。

セットでも何でもなく、威圧するように建つ巨大な城と、

この時代の庶民が行き交う町並み、男は素直に感嘆していた。

そして男は城の牢屋に入れられる。

武士が去り際に言った。

「お主、それにしても殿に似ておるのぉ、生き写しじゃ。」

 


しばらくして、男は数名の武士達の前で尋問にかけられた。

男は歴史の知識をフル活用して、出来るだけ無難な人物設定を作り上げ話した。

とはいえ、このような服、現代語訛りの古語では怪しさは隠しきれないが。

最後に、武士達は驚くべき命令を男に伝えた。

「お主、殿の影武者になれ、しからば、命だけは助けてやる。」

 

男に選択の余地はなかった。

だがこの影武者生活、男にとっては辛いものではなかった。

むしろ夢のようだとさえいえた。

衣食住は保証され、大好きな天下武将の影武者としてこの時代を生きることが出来るのだから。

 

男は殿としての教育を受けた後、

客人と会ったり、民衆の前で用意された演説をしたりした。

何も難しいことはない、客人が来たときは、ほとんど家来が話を合わせてくれるし、

演説も時には思わず熱がこもって男のアドリブが入り、後に怒られたりするくらいだった。

命の覚悟は常にあったが、男は殿の影武者としての生活を楽しんでいた。

 

 

 

そんなある日の深夜、密かに城下から離れていく十数名の者達がいた。

殿と精鋭の家臣、そして家臣は城の財宝も持ち出していた。


実はこの城下、敵対する武将の、莫大な数の軍勢によって包囲されつつあった。

こちらの軍は丁度、別の遠方の武将の討伐に行っており、城の守り手は極めて少なかった。

つまり城と家臣、民衆、そして何も知らずに殿として振る舞う男の命は、絶望的。

風前の灯火だったのだ。


 

城下から離れた殿と家臣は、何とか逃げ延びて、

友好的な関係の武将を訪ね、自分らの身の保護と援軍を要請する予定だった。


だが事はそう上手くは運ばなかった。

領地から出る道は尽く敵軍の監視下にあり、険しい山道を抜けなければならなかった。

その山道にさえ見張りの武士が居り、

ついに彼らはその一人に見つかってしまった。

見張りの武士は援軍を呼び、

弓が放たれ、次々に家臣が倒れていく。

何とか逃げ延びるも、殿と家臣は疲弊しきっていた。


 

そこで、家臣の一人がこんな提案をする。

「恐れながらも申し上げます。

 この近くに洞窟がござります、殿は財宝を持ち、そこにお隠れなさりませ、

 我らは最後の力を振り絞うて、援軍を請いに敵陣を突破しまする。

 その後、殿を迎えに参りまする故、ご辛抱なさってくだされ。」

「そうか、何があっても我を助けに参れよ。」

「ハッ!必ずや!」

殿は洞窟の中に隠れ、入り口は空気穴だけを開けて、塞がれた。

これでさすがの敵も気づくまい。

家臣達はいくつかのグループに分かれ、それぞれ領地外への危険な突破を試みた。

 

 

その頃、城下は大変な騒ぎになっていた。

敵軍の大勢の軍勢が城を包囲しつつあるのが、城下の見張りによって知られることとなったのだ。

そして殿の裏切りとも取れる行動も。

男は思った、

「自分は城と家臣と民衆ごと、影武者にされたのだ。」

だが男は不思議と力がみなぎってくるのを感じた。

今こそ、本物の城主、殿になるときなのだ、と。

うろたえる家臣、民衆を前にして男は言った。


 

「確かに、我らは劣勢じゃ、だが、滅びの「さだめ」というものは存在せぬのじゃ。

 歴史を作ろうではないか!「さだめ」ではなく未来が、我らの手の中にあるのじゃ!

 我らの城下と命を死守しようではないか!最後の一人まで戦うのじゃ!」


家臣にとって城下を捨てた殿と、城下を守ると言った影武者、

信用すべきはどちらなのか、それは明白だった。

男は戦国の戦術にも詳しかった。城下の性質、領内の地形、相手の武将の弱点・・・

 

家臣と民衆は男の元で勇猛果敢に戦い、

なんと、何万という敵の大群を退けた。

 

 

そのころ本物の殿は、痺れを切らせていた。 待てど暮らせど家臣は戻ってこない。

「役立たずめ!」

そういえばこの洞窟、奥から風が吹き抜けてくる気がするが、どこまで続いているのだろう?

殿は洞窟の奥に進んでいった。

するとにわかにあたりが明るくなってくるではないか、

「反対側に貫通しているのかも知れぬ、だとしたら逃げ延びることが出来るのかも知れぬぞ。」

殿はどこまでも進み、ついに出口へと出た。


 

出口の草原には、巨大な鉄の塊の様な物がどっかと置かれ、

中からひげ面の男が出てくるところだった。

ひげ面の男はおかしな扮装をしている。

そして親しげに話しかけてきた。

「何だ?その仮装は、いくら時代劇が好きだからって・・・。おまえらしいけどな、ハッハッハ!」

男は下品に大笑いする。

「それで、お宝は見つかったのか?どうせまた駄目だったんだろう、

 だが手間賃はちゃんと払ってもらうからな。」

 

殿は思った。

何故ゆえこの男は財宝のことを知っているのじゃ・・・?


どう考えても、自分にとって好ましからぬ人物だ。

見る限り、男が一人だけ。

殿は刀を抜いた。

 

「悪いが死んでもらう。」

 

ひげ面の男は身構える。

 

「おおーっと!物騒な物を出すな。

ついに本性を現したか、

 ・・・さては埋蔵金を見つけたのだな? 

 そして独り占めするつもりだろう!」


「財宝は元々我の物じゃ、お主になどくれてやるか!」


その時、空を切り裂く破裂音がした。

殿の足下に土煙が上がった。

ひげ面の男の拳銃が火を噴いたのだ。

「こんな事もあろうと思ってな、俺をなめるなよ、

 さあ、埋蔵金の場所まで案内してもらおうか!」


南蛮渡来の新式銃であろうか?

無念ながらこの男に従うしかなさそうじゃ。なんたることか・・・


その後、「殿」は行方不明、一説には

男の背負っていた、埋蔵金発掘資金の借金の取り立てに追われて逃げ回っているという。

 

 


一方、敵軍を退けた男は、破竹の勢いで、全国に領土を広げ、

ついに天下統一を成し遂げた。

そして長らく続く、平和な幕府を打ち建てた。


名実共に天下将軍になった男は、亡くなる間際、

一番信用のおける家臣に、こんな命令を残したという。


「幕府の宝物をいくらか、領地の洞窟に隠しておけ。

 世継ぎには知らせず、我らだけの秘密じゃ。

 そして、込み入った想像力をかき立てるような文面で、

 謎かけして、その位置を記せ。


 それが一体何の役に立つと申すかな?

 いいのじゃ、素晴らしきこの時代、「夢」という宝物以上の宝を、

 末の子孫達に残すのじゃ。

 いつかその時が来れば、解るのじゃよ。」


 

 

 

 

 

 

 

 ハミダシ

時代物じゃ!設定も話も、いずれもフィクションなのじゃ。

 

 


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コメント 19

てつろう

埋蔵金のロマンは殿が気をきかせているなんて
すばらしい発想です!
by てつろう (2007-01-15 17:49) 

本当によくできたストーリーです。
文学賞に応募し、受賞の際は、東武線でお祝いに駆けつけます。
by (2007-01-15 21:42) 

じゅん

てつろうさん>
ありがとうございます!
意外な場所に夢というのは埋もれているのではないだろうか?
と思い、書いてみました。

誠大さん>
ありがとうございます!
夢のようなお話ですが、東武線では近いですね(笑)
by じゅん (2007-01-15 22:27) 

みかまん

時代物!相変わらず挿絵がいいね^^
じゅんくんは、心や頭の引き出しの中の物を引っ張り出して
ストーリーにできる。それって誰にでもできることじゃないよ。
by みかまん (2007-01-16 06:33) 

jewel

おもしろい~~!
奇抜でよく出来てますね^^
物知りなんですねえ~~
絵も素晴らしいーーー
こういう物語、好きです♪
by jewel (2007-01-16 11:15) 

ミズリン

ロマン、夢、いろいろな気持ちが入り交じっていますねー。
グルグルグルグル・・・。
うまくいえないけど、ラストで「そうきたか!」と思いました。
時代物のようで、そうでもない感じが読みやすかったです。
挿絵も、時代物はカラーを感じないのですが、
じゅんさんの挿絵で時代物にも色があるのよね〜と、今更納得しました。
by ミズリン (2007-01-16 18:38) 

じゅん

みかまんさん>
ありがとうございます!
本当に質の良い物語を作るのは難しいですね。
いつかそうなれたら、と思います。

jewel さん>
ありがとうございます!
jewel さんに楽しんで頂けたようで嬉しいです^ ^
時代物の絵は初挑戦で当時の扮装など難しかったです。

ミズリンさん>
ありがとうございます!
今回は色々な要素の詰まった物になりました。
オチのことではいつも頭悩まされます。
正統な時代物というのは基本的に過去は過去として描かれるわけですが
今回はタイムスリップしてリアルに体験している設定なので、
意識して鮮やかに描いてみました。
by じゅん (2007-01-16 22:22) 

yujin

時代物!! ^ ^
戦国時代に移動してしまったのですね.
想像力がすごいです.
腹中に場面を想像しながら読めました.
by yujin (2007-01-17 13:15) 

TOMO

今でも様々な場所で
埋蔵金を探している人たちはいるのでしょう。
たとえ古文書などが
本物でもなくても、当時に「遊び」として
作られたものだったとしても
「追い求める」ことは夢があっていいですね。
by TOMO (2007-01-18 15:16) 

じゅん

yujin さん>
ありがとうございます!
日本の古い時代の話ですが、楽しんで読んでいただけたでしょうか?^ ^

TOMOさん>
その時代に思いを馳せる、その時代の理解が深まることに繋がれば
我々にとってもご先祖様にとっても良い事ですよね。
by じゅん (2007-01-18 19:25) 

アールグレイ

文章を読みながら、その場面を想像しながら楽しく読ませてもらいました。
埋蔵金から広がるタイムスリップの世界。
埋蔵金にかける主人公のロマンとともに、展開されるストーリーが
とってもよくできていて、映画にでもできそうなお話と思うことでした。
by アールグレイ (2007-01-19 01:27) 

be-happyyy

師匠。 突然ではありますが、こういうことになりました。
by be-happyyy (2007-01-19 14:26) 

じゅん

アールグレイさん>
ありがとうございます!
何と言っても楽しんでいただけるのが一番なので、
そう言っていただき嬉しい限りです^ ^

BE-HAPPY さん>
驚きました。落ち着いたら復帰されることを願って、待っています。
by じゅん (2007-01-19 21:53) 

y-yukari

すごいですね。読ませる力、文の力にぐんぐんと引っ張られてしまいました。パワフルですね。
by y-yukari (2007-01-20 00:14) 

私は歴史は弱いですが、心は戦国の世へ翔びますね
by (2007-01-20 15:34) 

じゅん

y-yukari さん>
ありがとうございます!
シンプルに読みやすくを心がけています、
どう深く表現するか、悩んでいます。

琥珀さん>
僕も歴史は弱いんです、だから、にわかの知識で描きましたw
そう言っていただき嬉しいです。
by じゅん (2007-01-20 19:30) 

あやこ

この男の方の気持ち ちょっぴり分かります!!
やっぱり洞窟があったら、どんどん奥に進んでいきたいと思うし、
もし、違う時代にいくことができたら、それはそれで感動しちゃうと思います^^
by あやこ (2007-01-20 20:49) 

殿が現代に行っちゃうってのが良いね。
洞窟の中で朽ち果てて、男が殿に成り代わるってのは
なんか悲しいものね。
by (2007-01-21 14:12) 

じゅん

あやこさん>
ありがとうございます!
この男は歴史好きではありますが、
誰にでも探求心、別世界の憧れがありますよね^ ^

ひなこさん>
ありがとう!
そうだね、殿が見殺しになっちゃったら、余りに残酷だよね。
借金取りに追われてる生活っていうのも惨めだけど(笑)
自分だけ逃げたから仕方ないか(笑)
by じゅん (2007-01-21 22:15) 

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