現日記 進修館 (完結編) [現(ウツツ)日記]
そこは喫茶店「ぶどうの樹」。
障害のあるお兄さん達が、ハーブティ等を砂時計と共に持ってきてくれる。
アットホームな雰囲気である。
床は木のブロックのタイル。湾曲した構造で外にテラスが縁取っている。開放的である。
■
少し紹介した家具や照明がなかなか凝っている。
硬い家具ばかりではなく、ペパーミント色のマッシュルームのソファーや畳もある。
そのソファーで、大学生らしき青年らが座って、談笑やポータブルゲーム機に興じている。
その様はとても自然で、お気に入りの場所にまた遊びに来たといった感じ。
この喫茶店は、いかにも「福祉やってます」という感じがせず、微笑ましい。
喫茶店から出るとテラスになっていて、街景が望める。残念ながら特に面白い眺めではないが。
ここにもやっぱり進修館らしいデザイン。
なにやら細くて興味を引く通路を発見。これは行けと言ってるようなものではないか、
あの角を曲がると何があるのだろうか。
この大きな梯子は何だ。
壁面に沿って曲がりくねった華奢な階段が遠く続く。
アニメ映画「千と千尋の神隠し」に出てくる湯屋の裏方を思わせる。
残念!立ち入り禁止。これは、ますます気になるというもの。僕は袋小路のネズミだった。
動物の巣穴のようなトイレ。これはなかなか面白い、
便器の配置の仕方で、満員でも精神的死角が塞がれる安心感である。
これは進修館の公園のトイレ。このトイレ、天井が無い。
通路や男女トイレは壁で仕切られているだけ。
その代わりに一つのガラスの屋根で覆われ、明るく開放的
暗くて圧迫感のある公衆トイレのイメージはこのトイレには無い。
施設の管理者が意欲的かどうかはトイレを見ればわかるのではないか?
とにかくあらゆる場所にこだわりを感じる。この建物に平凡な部分はほとんど無い。
子供の頃、はっきりと記憶している、あらゆる大小のスペースに驚きと、未知の感触があった。
伝説の城、ラピュタを思わせる不思議の城であった。僕は騙されない子であったのに!
この壁、この門、この階段。全てが設計士が線を引いたものである。
ある意味ここは設計士の頭の中なのだ。
実用性もあるのだが、これは正に内から踏み、触り、眺める彫刻のようなものだ。
自分が作った小さな世界に人々が遊び暮らすのだから、
建築家とはなんと楽しそうな仕事ではないか。
僕が幼いころ、建築家は映画監督と並んで僕のなりたい職業の一つであった。
もちろん、この建物が影響したことは言うまでも無い。
この建物はまだ未完であろう。
張られたネットにはまだ樹木が這い始めたばかりだし、
中の人でさえもこの建物の一部のように、建物に有機的な接点が用意されている。
建築家の目論見どおり蔦が庭から進修館を覆ったとき、
変わらず中は人で賑わっているだろうか、
きっとそうだろう、と僕は楽観しているのである。
おひさしぶりです!
>アニメ映画「千と千尋の神隠し」に出てくる湯屋の裏方を思わせる
なんとなくどの場面かわかったよぉ~♪
by まい (2006-03-19 00:49)
なんだか、じゅんさんに案内されながら、
自分自身がこの建物を歩いているような、
そんな錯覚に陥りそうな完結編でした。
すごく開放感を感じるのは、この建物の光のせい?
それとも、案内役じゅんさんのせい?
by ミズリン (2006-03-19 09:39)
まいさん>
お久しぶりです~。
おおー、場面伝わってよかった~!残念ながら追体験はできなかったけど(笑)
ミズリンさん>
ありがとうございます!この建物を仮想体験してもらいたくて書いたので、
そう言っていただけて嬉しいです!
きっとミズリンさんの想像力の賜物でしょう。
by じゅん (2006-03-19 18:41)
トイレがきれいというのは僕の中でも高得点です。
福祉もやっていたんですね。 なかなかです。
うちの近所にもこんなのできないものかなぁ。
by be-happyyy (2006-03-20 12:17)
じゅんさんのワクワク感が伝わります。
確かにトイレが明るく衛生的なのは
最高の建物の証だと思います。
全てに手が込んでいて、じゅんさんが
力説して紹介したい気持ちがわかります~^^。
by jewel (2006-03-20 13:16)
「ぶどうの樹」でじゅんくんとお茶してみたい^^
by みかまん (2006-03-20 15:39)
BE-HAPPYさん>
僕もトイレにこだわると言うのは、
当然のようで中々気づかない発想だと思います。
市民の中で意識が高まってくれば、このトイレの名前のように、
結晶するのではないでしょうか。
jewel さん>
子供のようでしたね、少しはしゃぎすぎたかもしれません。
トイレというのは建物の設備の基礎の基礎であって、
しいては建物全体を象徴してしまうといっても大げさではないと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
みかまんさん>
僕もみかまんさんと「ぶどうの樹」でお茶してみたいですね~。
by じゅん (2006-03-20 21:12)
いつも思っていたのですが、どうして、ウチの市には、これだけ素敵な施設がないのだろう???
by (2006-03-20 21:18)
砂時計を持ってきてくれるの?
優しい感じがするね^^
by nyan (2006-03-21 01:25)
誠大さん>
もしかしたらあるかもしれませんよ。
僕もこの町の特別さに最近まで気づかなかったんです。
師匠>
そう、普通に喫茶店としていいよねぇ。
by じゅん (2006-03-21 19:43)
既存の概念を打ち崩した建物ですね。
トイレがトイレっぽくなく、
福祉施設が福祉施設っぽくなく、
マイナスイメージをプラスイメージにしてしまえるのも
デザインの力ですね~。
by むが (2006-03-21 23:24)
むがさん>
なるほど、工夫次第で、本質を変えずとも印象が変わってしまう良い例ですね。
こういう刺激も、日本の街に良い刺激になるといいです。
by じゅん (2006-03-22 19:57)
いいですねえ~~。これでこそ、デザイン!という感じですね。
by (2006-03-23 19:58)
fumilin さん>
勇気がありますよね。
by じゅん (2006-03-24 06:19)
やっぱり、内と外のイメージのギャップが、大きいような気がします。
でも、本当に面白い建物ですね~
by albireo (2006-03-29 01:05)
albireo さん>
そうですね、外は「殻」のような感じで、趣が違います。
見所が本当に多かったですよ。
by じゅん (2006-03-30 16:19)
大阪で街づくりをやっているものです。
20年ぐらい前、象設計集団が好きだった私は、完成したての進修館を見に行きました。屋外のトイレはなかったですが、ほぼ昔のままで、しかも地域の人たちに使われているようで安心しました。ただ打ちっぱなしが、彼らが設計した笠原小学校と同じように赤くなっているのにはびっくりでしたが。突き出た無数の柱はぶどう棚で覆うという考えからでした。沖縄で、設計した今帰仁の公民館を下地にしてますが、当時の沖縄だからできるといった声を、本土でもできることを立証した施設でした。特に立派なのは、平均的な公共施設の予算で設計施工している点で、あれだけ柱を立てながら、予算内に納めている点は驚愕です。私が見に行ったとき、まだ雑誌には笠原小学校は紹介されておらず、そちらと合わせて度肝を抜かれたのをよく覚えています。広場と一体となり、どこからでも出られるデザイン、大学にたちこもった経験を生かしたどこにでも座ることのできる土間感覚の床と、光の帯のクラック、植物が覆う生長する建築は彼らの真骨頂でした。広場は建物も含め観客席になる形も彼ららしいデザインです。半円形はフランクロイドライトを模したところもありますが、高さに変化を与えたアーチは圧巻ですね。設計した大竹さんは40歳前後で亡くなられたと思います。しかもサッカーの試合中に。墓は、仙台にあり、屑タイルを水門のようにちりばめたその納骨堂もとても素敵です。東京では調布駅前の楠サロン(広場)や世田谷美術館に向かう甍の道なども同集団です。早稲田大学の卒業生たちで、大竹さんは、今帰仁公民館、名護市庁舎、進修館と続き、これからという時でした。ちなみに家具は方團館、小学校は、富田れい子さんの設計です。若い人にも共感が得ていることに思わず長文を打ってしまいました。昔を思い出して、とてもよかったです。
by boss26 (2008-02-08 00:40)
boss26 さん>
進修館を身近に感じている一般町民の目で、
この記事を書かせていただきました。
僕の知らなかった事実、詳しい解説を頂き大変興味深かったです。
ありがとうございます。
仰るとおり進修館の壁は途中で葡萄をイメージする色に塗られ、
隣に公園と新しい町役場も整備されました。
新町役場は象設計集団の設計ではないですが、
開放的、先進的な木造建築で、木造としては他に類を見ない大きさです。
笠原小学校は時節柄、中に入って撮影することもできず、
記事にすることを断念したのですが、本当に独創的なつくりですよね。
僕は残念ながら地域が異なり違う小学校に通ったのですが、
笠原小の児童が羨ましかったです。
この記事を書いてから象設計集団にますます興味が増しました。
この町で仕事をしてくれた彼らに感謝するとともに、
この町を誇りに思うことができるようになりました。
boss26さんも街づくりを頑張ってください。
by じゅん (2008-02-12 19:57)