夢小説 機械化皇帝 [夢小説]
工業化著しくとも、まだ成熟に至っていない近代。
ある国では未だに古くから続く皇帝の血族が権力の全てを握っていた。
彼らの血族が巧みに民衆を支配してきたこともあったし、
民衆の側も、混乱無くこの国を束ねる強い皇帝を求めた。
だが、現在の皇帝は高齢で不治の病、子も無く、世継ぎを残す能力を持っていなかった。
このままでは、皇帝の死後、国内で血を血で洗う権力争いが起きることは想像に難くなかった。
バイオテクノロジーなどまだ無い時代、せめて皇帝の寿命をできるかぎり延ばすこと、
それが皇帝と民衆の望んだことだった。
そこでこの国の最高の医師と天才技術者が集められた。
臓器移植の技術は未熟であり、永久的に皇帝の体を維持するのが目的であるので、
機械を主体とした人工臓器を使う。
とにかく資金に糸目は付けない、巨大で高度な臓器設備が皇帝のためだけに用意された。
まず、皇帝の壊れた肝機能、膵機能を回復するため、沢山のチューブが埋め込まれ、
チューブの先は建設された広大な化学コンビナートに送られた。
肝臓では解っているだけで500以上の高度な化学反応が行われている。
この時代の化学ではなおさら、莫大な規模の設備が無いと処理しきれないのだ。
月日が経つと消化器官、腎機能も駄目になったので、コンビナートは増強された。
次に認知症が始まると、その脳の壊れた箇所を補うべく、
真空管が整然と並ぶ、巨大なコンピューターが建設された。
またしても皇帝から電線の束が延びそこへ通じた。
心臓の替わりにポンプ、肺の代わりにガス交換機、
これら人工臓器を制御するための様々な設備、巨大な発電所が建設された。
もちろん莫大な国費が投じられ、人員も維持費も掛かり続けた。
もはやこの国の予算は全て皇帝のためにあると言ってもおかしくなかった。
他の分野の予算は尽く削られた。
ある日、隣国がこの国の内情を知ってか、軍勢を率いて突然この国を侵略した。
この国の軍隊は、皇帝の体の維持に人手も予算も奪われ、弱小になっていた。
このままでは、この国は隣国に滅ぼされてしまう。
側近は極秘に苦肉の策を取った。
皇帝の「機能」の一部を利用するしかない。
肝機能用の化学コンビナートで燃料や火薬を精製し、
脳補助用の真空管コンピューターで大砲の弾道計算や、敵国の通信の暗号解読をするのだ。
皇帝は側近に聞く。
「隣国が攻めてきたそうだな、戦況はどうだ?」
「我が軍は勇猛果敢に戦い、敵軍を完全に凌駕しています。」
実際は、敵軍にかなり押され、戦局はかなりひっ迫していた。
「うむ。」
「ところで体が何だか苦しいな、手が震えるし、頭が痛くてボンヤリする。」
皇帝の体には黄疸が出ており、手は震えていた。
「臓器設備の調整を致しましょう、心配はございません、症状は長く続かないでしょう。
お気を強く持ってください。皇帝だけが頼りなのです。」
「解っておる。頼むぞ。」
皇帝は側近の言葉の隠された意味など知る由も無い。
皇帝の「機能」は思いの他、役に立った。
火薬や燃料は存分に供給され、皇帝のコンピューターは正確に働いた。
その後、敵軍を辛くも退けたのだった。
「今度の戦争は酷く疲れたな、頭だけでなく体まで疲れた気がするぞ。」
皇帝の黄疸と手の震えは消えていた。
「お疲れ様でした、ゆっくりとお休みください。」
側近は立ち去る。
この前例から、国の危機のたびに皇帝の「機能」が利用された。
皇帝への経費で予算の余裕などいつでも無いのだ。
ある日、国の財政が悪化すると、またしても皇帝の「機能」で化学製品を製造したり、
皇帝のコンピューターで各種の科学研究が行われたりした。
その度に皇帝は苦痛に顔を歪める。
「財政が、危機らしいじゃないか、大丈夫なのかね?」
「新しい製品を輸出し、利益が出ています、
研究も進んでますから間も無く赤字は解消されるでしょう。」
「ところで、また気分が酷く悪い、臓器設備の調整を頼むぞ。」
「解りました、たびたび申し訳ありません、間も無く解消されますからご辛抱ください。」
「皇帝というのは苦労の絶えない仕事だな、いっそ死んでいたら楽なのかも知れぬ。」
「そんなことおっしゃらないでください、皇帝だけが頼りなのです、
これからも民のためにいつまでも生きつづけてください。」
ハミダシ
こんびなーと・・・むずかしい。。
絵もリアリテイィ十分です!
硝酸します。
酵三、酵伍など配慮もniceです
by てつろう (2006-09-25 18:52)
てつろうさん>
ありがとうございます!
ちょっと東洋の帝国の工業施設というイメージで描いてみました。
by じゅん (2006-09-25 21:58)
イラスト、nice!です。 近くの紡績工場を思い出します。
現代の医学・科学だと、倫理・方法はどうあれ、「人を生かす」という
面だけにおいてはどれほどのことが可能なんでしょうね。
その時点で現存するものが「人」かどうか、という点がラインとなる
でしょうが。
ちょっぴり興味があります。
by be-happyyy (2006-09-26 10:49)
今回の話も深いですね・・・。
生きていることの意味、それは本人の意志で生きられなければ意味がないと感じている私です。生かされていることに意味がないとは言いませんが、難しい問題です。
しかし、じゅんさんの絵は味がありますね。
伯父様譲りの才能でしょうか?
by ミズリン (2006-09-26 15:44)
BE-HAPPYさん>
ありがとうございます!随分高度な読まれ方をしますね~。
少し調べたのですが、脳と肝臓以外は人工のものに置き換えるめどが、
立っているようです。脳と肝臓も実験が進みつつありますが
とにかく複雑なので、この話のような規模の設備というのは、
決して誇張ではありません。良く脳だけ水槽に浮いて、生きているってシーンを映画などで見ますが、今や体からの刺激が無ければ脳は維持できないと言われるようになってきているようです。長くなりました。。
ミズリンさん>
深いですか…恐縮です。皮肉だと軽く笑い飛ばして構いませんよ。(笑)
そうですね、僕はどちらかというと安楽死肯定派です。
自然に逆らって苦しいばかりの生、何より本人も望んでいないなら。
正にこの皇帝のようにですね。
絵は木炭タッチで描いているので、下手な所も誤魔化せるんですよ(笑)
伯父の才能はどちらかというと兄が受け継いだと思います。
by じゅん (2006-09-26 21:38)
いやぁ~っ。
絵も文も、天才的ですね。
短文ばかり書くことに慣れてしまって、最近は長文が極めて苦手になってきている僕にはうらやましい限りです。
by (2006-09-26 22:50)
ううう~~ん・・・今回は
難しすぎてよくわからん(ごめんね)。
サイドバーの、伯父様の絵、
素晴らしいですね!
最初写真かと思いました。
じゅんさんの絵の才能は、この方の
血も少しは受け継いでいるのかしら。
もっと大きい画像が観たいです。
by jewel (2006-09-27 16:51)
誠大さん>
誠大さんにそう言っていただき、恐縮です!
僕も、長編小説というのは書いたこともないし、全くの未経験ですよ~
jewel さん>
いえいえ、今回は理系の内容が先走ってしまいましたかね、
こちらこそごめんなさい~
伯父とは絵の才能はとても比較になりませんが、
性格は似たところを感じます。
by じゅん (2006-09-27 17:50)
じゅんさん、こんにちは
面白かったです。タイトルが999ぽいですね。(笑)
僕も、伯父様の絵をもっと大きな画像で拝見したいです。
by (2006-09-28 11:40)
lapis さん>
こんばんは、そう言って頂き嬉しいです!
999が書かれた時代とこの皇帝の時代はまだまだメカの時代ですね。
伯父の絵、お目の高いlapis さんにもリクエスト頂き、光栄です、
近々、掲載したいと思います。
by じゅん (2006-09-28 21:35)
王子、おはよ~~^^
私もまずタイトルで、スリーナインぽいって思ったわ。
王子は、本当にすごいな。。
恋愛系の夢小説は、今後発表されたりするのかな?
by nyan (2006-09-29 07:25)
ハミダシ、かなり好きよ。なんかかわいいww
by nyan (2006-09-29 07:26)
師匠>
師匠、こんにちは~^ ^
999はそんなに詳しくないんだけど、
てつろうが機械の体を手に入れるために旅立つんだよね。
話は思いつくままだけど、恋も生まれると思うよ~。
師匠がそう言ってくれるなら、今後もハミダスことにするよ(笑)
by じゅん (2006-09-29 14:33)
私も999を思い出した。
(超好きなので)
機械の体により永遠の命が
手に入ったとしても、はたして「永遠」とは
そんなに魅力的なものなのか考えてしまいますね。
部下に利用されているとも知らないで。
by TOMO (2006-09-30 15:14)
TOMOさん>
999には「機械化皇帝」というのが出て来るんでしょうか。
おっしゃるとおり、この皇帝、哀れですね。
子供の頃は王様は良いとか思ったものですが、苦労も多いと思います。
by じゅん (2006-09-30 21:43)
絶対に短編集を出すべきです。イラストもご自分でね。
by (2006-10-06 08:52)
no_chaser さん>
いつか出せたらいいですね。僕の夢です。
その時は路地裏の店のパーティーにご招待します!(笑)
by じゅん (2006-10-06 17:32)